ぽんはぜおじさん現る

 わが町内では年に一回ぽんはぜおじさんが来ていた。ぽんはぜとは、ポン菓子とも言われ、終戦直後あまった大砲にお米を入れて爆発させて作っていたという話が残っている。「おらぁフーテンの寅さんだ」というそのおじさんは、このあたりで「ぽんはぜ」作るのはおらだけだで、貴重だで、と言っていた。
 最初に一人お客さんが来ればどんどんお客さんが来るが、なかなか最初のお客さんが来ないと言う。ぽんはぜを作ってもらいに来たおばさんが、「店頭で作ったのを並べてみたらどうよ」というと「ばかこけぇ、そんなことしたら露天商になっちまって怖いお兄さんがくるだぁ」。どうやら店頭で物を販売するのは、その筋の許可がいるらしい。勝手にやってきて、そそくさとぽんはぜを作り、さっさと帰るのがこの商売の鉄則らしい。
 こんどいつ来るのか聞くと「1年後だぁ」といっていたが、それから現れなくなった。